【日本シリーズを観て】
「魔法の島」班 石井世紀

 今年の日本シリーズは、10年ぶりに第7戦までもつれる大熱戦となった。勢いづいた阪神を抑え日本一に輝いたダイエーは、新人を含む若手選手の活躍が目立っていた。これだけの大舞台で活躍できる今時の若者には、本当に驚かされる。日本人がメジャーリーグで活躍する時代だから、日本シリーズなんてそんな大舞台だと思っていないんだろうか?
 最近スポーツ界では野球だけでなく、サッカー、水泳、陸上などでも世界の第一線で活躍する選手が増えてきた。かかし座でも最近入ってくる人たちには驚かされる。
私がかかし座に入った10年前は大変なものだった。
初舞台は入社1ヵ月後に訪れた。公演班全員で取り組んでいた「ニールスの不思議な旅」という作品。当時の稽古場は工業団地の一角を借りた大変環境の悪い場所だったため、原寸で舞台を立てられるスペースがなく、斜めに舞台を想定してスクリーンを立てていた。移動式のスクリーンを舞台袖(注:ステージの両脇。客席からは見えないスペース)から、出したつもり、引っ込めたつもり、みたいな感じで、実際はどのぐらいの距離があるのか、どのくらいの時間があるのか、まったく舞台という物を知らない新人の私にとっては、何をやっているのかよくわからないまま稽古していた。
ついに本番の直前、私は極度の緊張で何度もトイレにこもって、自分のやるべき段取り、せりふを確認した。しかしまったく落ち着けず、地に足がつかないまま本番を迎える。
第一場、最初に影絵が映るセンタースクリーンを前に出すという大役を、同期入社で同じく初舞台のM氏と共に任されていた。しかしお互い緊張していた為、息がまったく合わず、スクリーンはストッパーからそれて客席の方へ! 危うく大惨事になるところだった。その後の芝居はまったく覚えていない。
 いまでも時々、M氏と当時の事を話すことがある。そしていつも「最近入ってくる奴はたいしたもんだ」、最後には「でも無難すぎて面白くない」と自分たちをフォローする。しかしホントに、最近はみんな優秀だと思う。もちろん当時と比べて、今の稽古場は原寸で舞台を組めるし、稽古時間も取れているとは思う。だけど初舞台の緊張がミスにつながらないのは、私やM氏のような緊張屋にとっては悔しいとすら感じる。
プレッシャーを力に変えられる彼らはすばらしいと思う。おそらくダイエーは黄金時代を迎えるだろう。そして、もしかしたら、かかし座も…?