ご心配いただいた皆さまへ
  
皆様に御心配を頂きました件につきまして、報告させていただきます。
昨年9月に報道された佐野研二郎氏の無断流用疑惑につき、多数の方から「あれは本当はかかし座の手影絵ではないのか?」というお問い合わせをいただきました。
この件につき、当方で調査等を行い事実関係が判明いたしましたので、以下少し長くなりますが報告いたします。
  
  
1.手影絵画像流用に関するネットニュースが9/3に配信された
昨年(2015)9月3日、東京オリンピックエンブレム問題で話題の佐野氏関連のニュースがJ-CASTニュースから配信された。記事によると、学校法人 多摩美術大学(以下 多摩美)の雑誌広告シリーズ「MADE BY HANDS.」の作品に使われている手影絵写真が、個人ブログのものを無断使用したのではないかという疑いがある、との事。
以下がその記事である。  

疑惑が持たれているのは、佐野氏が手がけてきた多摩美大の雑誌広告シリーズ「MADE BY HANDS.」の作品だ。大学公式サイトによると、デザインは、佐野氏が代表を務める事務所「MR_DESIGN」で働く14年同大卒の女性デザイナーが担当。佐野氏はシリーズのアートディレクターを務めている。
   これまでにニューヨークADC金賞をはじめ、さまざまな広告賞を受賞しているのだが、ネット上では約100作品ある中の2作品について、2015年8月末ごろから「画像を無断流用しているのではないか」との声が相次ぐようになった。
   1つめは、犬の手影絵を使用した作品。ネットでは、この影絵の部分が2010年に個人ブログに掲載された写真と酷似しているとの指摘がなされている。ブログの写真は手影絵を作る手の方を写したもので、両者を重ね合わせると形がぴったりはまるというのだ。
  (中略)
   もちろん実際に使用していたとしても、了承を取っていれば問題はない。だが前出のブログ主は9月3日、読者からの質問に対して「使用許諾を取られた覚えはないです」と回答している。

引用元:J-CASTニュース 2015/9/ 3 19:23配信

なお、同様の記事はlivedoor ニュース、BLOGOS、スポーツ報知、ハフィントンポスト日本版、東京スポーツ、ねとらぼ等でも配信された模様。
  
  

佐野氏事務所「MR_DESIGN」デザインの多摩美術大学ポスター
(引用元:多摩美術大学ホームページからは2015/9/10現在削除されている)


  
2.記事の内容を検証した
  
この記事の中で、MR_DESIGNに無断使用されたとされる犬の手影絵の画像は、「じゅん・とらぼるた」氏のブログ「ごろテキトーなブログ」内で見る事ができる。そのブログによれば「『犬』をやってみせました。」として以下のような画像が掲載されており、このブログ主氏本人の手であるかのように紹介されている。このブログに掲載されている犬の手影絵は、確かにMR_DESIGNが多摩美のポスターに使用したものとぴったり重なるため、同一画像であると認識できる。

(出典:「ごろテキトーなブログ」 2010-08-21 21:52:55 掲載画像)

検証画像1
多摩美術大学のポスターとブログ掲載画像を重ねたもの。

  
3.どちらの画像もかかし座の手影絵画像である事を確認した
  
しかし、この「じゅん・とらぼるた」氏のブログに掲載されている犬の手影絵も、またそこから無許可で転載していると指摘されているMR_DESIGNによる多摩美のポスターも、実は有限会社 劇団かかし座(以下 劇団かかし座)の手影絵の画像なのである。私たち劇団かかし座ではこの上記ネットニュースが配信された段階で劇団かかし座劇団員の出演による犬の手影絵の画像と酷似している事に気づいた。そして以前の仕事の記録の中から該当する画像を特定する事が出来た。以下がその画像である。

(かかし座撮影画像 撮影日2007/10/11 21:40以降)

検証画像2
多摩美術大学ポスターと劇団かかし座提供の手影絵画像を重ねたもの。

  
4.劇団かかし座が提供したのはキッズステーション「はぐステ」のWEB記事である
  
劇団かかし座が画像を提供したのは、2007年12月3日公開 キッズステーション「はぐステ」の以下のコーナーである。
昔あそびをおしえて 影絵 第2回 「手かげえ」をつくってみよう!
https://web.archive.org/web/20080819113451/http://hug.kids-station.com/yomimono/howtoplay/071203.html

該当ページは現在、画像リンクが切れている状態であるが、公開時のページをコピーした資料から、上記画像がアップロードされていたことが分かる。
 <該当ページ公開時にコピーした資料を末尾に添付>
 
人間の手というものは、一人一人で指の長さの比率、関節や筋肉のつき方、等が微妙に異なり、同じ「犬」の手影絵を作ったとしても、今回のケースのように画像が全く重なるように作る事はほとんど不可能である。よって、MR_DESIGNは以下のような釈明をしているが、これは全く釈明になっていないと言わざるを得ない。

「MR_DESIGN」の広報担当者は3日夜、J-CASTニュースの取材に応じ、2点の作品に指摘されている画像を無断流用したという話は「事実無根です」と完全否定。手影絵の画像については「紙で切り絵を制作しMR_DESIGNで撮影したもの」〜と説明

引用元:J-CASTニュース 2015/9/ 4 13:44配信

なお、MR_DESIGNは、前ページの2点の画像のうち、影の画像ではなく手の画像の輪郭をトレースし、そのまま使用している。


  
5.以上の事実に対する対処について
  
劇団かかし座は「はぐステ」に対して提供した手影絵画像を無断で流用し、なおかつ「紙で切り絵を制作し〜」と虚偽の説明を流布するという行為を看過することはできないので、MR_DESIGN並びに多摩美に対し、「通知書」を送付した。(2015年11月6日発送)
通知書 MR_DESIGN><通知書 多摩美術大学


  
6.両者の回答について
  
多摩美からは11月30日付、MR_DESIGNからは11月27日付で相次いで「回答書」が届きました。
  
多摩美の回答書要旨は以下の通り。
  
1.本件雑誌広告は、本学(学校法人多摩美術大学)がMR社(株式会社MR_DESIGN)に製作を依頼したものだが、MR社が主体的に製作をしたものである。
2.本学は、その構成やデザインについて具体的な指示はしていない。最終的に文字的校正作業に関与している。
3.MR社の佐野研二郎氏は本学教員として招聘しているが、本件を依頼した平成23年度当時に雇用関係はなかった。
4.したがって、本件デザインはMR社が独自に創作したもので、本学は回答する立場にない。
  
この回答書は論理的に少しおかしなところはありますが、弁護士の名前で送付され、要旨は「本学はMR社に製作を依頼したが、MR社が主体的に製作したもので、本学は回答する立場にない。」要するに「責任はMR社にある。本学ではない。」という事です。これについてはそうかもしれません。しかし多摩美の広告にそうしたものが使われてしまった事に対して一言も無いというのは如何なものなのでしょうか。
  
次に、問題のMR_DESIGNからの回答書です。
MR_DESIGNの回答書要旨は以下のようになります。
  
1.本件デザインは、①検索された画像を、②PC画面上でイラストレーター(adobe社のソフトウェアの名前)のペンツールで輪郭を縁取り、③これを拡大して印刷し、④それを輪郭線に沿って切り取り、切り絵を作成、⑤当該切り絵に太陽光を当てて影を出し、⑥これを撮影、⑦濃淡やノイズを加え化工し、本件広告の一部に使用したものです。
2.このため、本件手影絵写真自体を使ったわけではない。
3.貴社(劇団かかし座)は「権利を侵害する」と主張しているが、本件雑誌広告の手影絵部分と本件手影絵写真と類似しているのは手影絵の輪郭に過ぎない。これには著作物性がないため、著作権侵害には当たらない。  
  
この回答書も弁護士名で送付されました。
こちらは驚くべき事に、劇団かかし座の手影絵画像を無断で使用した事を認めています。その上で、丁寧に自分のした作業を説明しています。曰く、「1.該当するネット上の画像を、2.イラストレーターのペンツールで輪郭を取り、3.拡大して、4.切り抜き、5.影を出して、6.撮影し、7.濃淡など加工し、そして使った。」というわけです。そして従って「画像を無断使用したというのは事実無根」という発言は、これだけの手間をかけているので「そのまま使用したのではないという趣旨」なのだそうです。
しかし上記1.から7.までの作業は、少しこうした作業に関わった方なら誰でもわかる事ですが、「そのままトレースして使いました。」と言っているのに等しいのです。
その証拠には、そうして作った多摩美の広告画像と劇団かかし座の手影絵画像がピタリと重なるという事で明らかです。
  
そして次にこうした記述があります。「仮に著作権侵害をご主張になられているのであれば、本件手影絵写真と実質的に類似するのはその手影絵の輪郭に過ぎず、これには著作物性が無いため、本件デザインは著作権侵害を構成するものでは無い〜」これは要するに、「手影絵の輪郭だけ無断で借用いたしましたが、これには著作物性がないため法律的に問題無いでしょ。」という意味です。
この下線部の部分について説明をいたします。現在の著作権法によれば、この法律で保護される著作物は「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの。」となります。さて、ここで手影絵の輪郭が「思想又は感情を創作的に表現したもの〜」と言えるかどうかという事については、とても微妙な部分であると皆さんも感じられると思います。よって、MR_DESIGNは「著作物性が無い」と言っているのです。ここが彼らの唯一の逃げ道です。
影絵というものはそもそも原理的には輪郭だけのものです。輪郭に著作物性が本当に無いのだとしたら、「影絵」という世界中で親しまれている美術カテゴリーが丸ごとひとつ認められなくなってしまいます。それなら「肖像権」はどうかというと、これは本人であるという事がわからないとその適用は難しいのです。要するに一般的には「顔」の出ている事が必要なのです。
  
実はこの手影絵写真の手の持ち主はかつて事故の経験が有り、その影響で指の形にある特徴があります。ですから本人確認は出来るのですが、「顔」ではありません。(丁寧にそうした指の特徴までMR_DESIGNはトレースしています。)
  
そして最後に残るのが「利用形態の違法性」という部分と考えられます。これは、「画像やデザインを商売にする場合、普通はお断りを入れるものだ。」という部分です。いわばモラルの部分です。MR_DESIGNからの「回答書」にはそうしたモラルの部分を感じさせるものは微塵もありません。それどころか当社の著作物(著作権法の規定するもので無いにしても)に対して、「著作物性が無い」と半ば侮辱し、居丈高に「何も違法性の無いもののどこが悪いのか。」と、開き直っています。「他人の著作物を軽視する態度」と言えるでしょう。
  



7.今後について。
 
これまでの事を整理してみます。
MR_DESIGNは劇団かかし座に対し、利用の許諾を求めた事実はありませんし、劇団かかし座の手影絵画像を無断で使用した事を認めました。「回答書」の内容もおよそそのモラルを感じさせないもので、自分たちの行為自体がおかしい点(無断である事)については全く知らぬ顔です。
影絵は輪郭こそが命であり、表現です。これは著作物性を充分感得できるものであると私たちは主張します。この「犬の手影絵」は基本的には江戸時代の文献にも見られる、日本ではごく一般的なものに見えますが、実は当社独自の工夫の加わったもので、伝統的なだけのものとは違うという事も言添えておきたいと思います。  
  
現在の日本の著作権法は非常に不備の多いものです。私たちが多年にわたって積み重ねてきた「影絵」の「著作物性が低い」と判断されるとしたら、これは大変心外な事です。
今回はここまでにしようと思います。双方からの「回答書」には自分たちの「利用形態の違法性」に触れた所がなく、そのモラルのあり方についての是非はこの報告を読んでいただいた方の判断に委ねたいと思います。劇団かかし座は多摩美及びMR_DESIGNに対し代表者名で「通知書」を出しましたが、双方からの「回答書」は弁護士名(代理人)のものでした。これが、そのまま彼らの事情とセンスを表していると私は考えます。  
  
平成28年3月9日

有限会社 劇団かかし座
代表取締役 後藤 圭